不妊治療中の流産の心と体のケア
不妊治療は妊娠・出産を目指す過程で流産の経験が多くなります。「妊娠できたんだから次は大丈夫!」と安易に言われることも多く、女性自身も想像以上に心も体も傷つくのですが、次の妊娠に向けて立ち止まっている時間がないように感じられ、しっかりケアができていないことがよくあります。流産を経験された方、身近な人が流産された方達にどのようなケアが必要かお伝えします。
目次
- ○ 不妊治療で経験することが多い流産
- ・化学流産
- ・繫留流産
- ○ 流産の心のケア
- ・流産による心のケア①体:体のケアは心のケアのためにもとても大事
- ・流産による心のケア②喪失:生まれたかもしれない赤ちゃんを失うこと
- ・流産による心のケア③悲しみ:時間が経ってもよみがえる悲しみ
- ○ 流産を経験された方達にお伝えしたいこと
不妊治療で経験することが多い流産
不妊治療では出産を目指しますが、まずは妊娠を目指します。その過程でより高い確率で妊娠する方法を選ぶので流産となるケースも勿論あります。
一般的な流産の確率は全体で15%程度で不妊治療においても同じです。
ただ、女性の年齢によりかなり数字は変わり、
たとえば
30歳 16%
35歳 20%
40歳 35%
45歳 65%
となります。
化学流産
化学流産は妊娠検査薬が陽性反応を示したものの、エコー検査で妊娠が確認できる前に流産してしまった状態で正確には生化学妊娠、と言います。
自然妊娠の過程ではあまりわからないのですが、不妊治療の場合、タイミング、人工授精、体外受精をしているので妊娠を100%期待していい状況です。ですから、妊娠検査薬、あるいは病院で妊娠反応(ホルモン値の上昇)を早い段階で知る機会があるのですが、数日たって胎嚢の確認ができないことも多く、その場合化学流産、と表現することがあります。
これも流産になりますので、この流産により傷つきを感じる人もいます。でも、胎嚢が見えていないならそんなに悲しむことはないんじゃない?とか、そんなの流産じゃないよ、と考える人はいますので、そういった周囲の感じ方、考え方の違いで、さらに傷つくことがあります。
本人(パートナーも含む)にとって授かるかもしれなかった赤ちゃんを失った、ことには変わりはなく、もしその方が傷ついているのならそれは受け止める必要があります。
繫留流産
胎児(胎芽)がすでに死亡していて、子宮の中に留まっている状態を稽留流産といいます。胎嚢・胎芽・心拍の三つを確認できた時点で、正常妊娠となりますが、胎嚢が見えても胎芽が見えない、胎芽が見えても心拍が確認できない、もしくは心拍が停止になると繫留流産となります。
この場合、化学流産と違い、エコーで視覚的に赤ちゃんを見る機会がありますし、まして心拍音を聞いた場合は聴覚としてその記憶があります。その赤ちゃんが「死亡」という事実はとてもとても受け入れがたく、自然と体の外に出るにしても、手術を受けるにしても体のダメージは大きく(大量の出血、術後の検診など)、非常に強い悲しみが伴いがちです。
上記した流産率は化学流産は含まれず、この繫留流産となりますので少なくない女性(時にはパートナーも)がこのような悲しみを経験していることになります。
流産の心のケア
流産は体のケアは勿論、心のケアも必要ですが、周囲は流産が分かった時点からしばらくは一緒に悲しむなど理解を示してくれるものの、2,3か月もすれば「前に進む」ことを期待することが多いようです。
一つには周囲の人たちも早く赤ちゃんを授かることを願っているからと言えますし、
また本人が次の妊娠、出産をすることが何よりの「癒し」と思っているからのようです。
でも、実際は全く違うのです!
流産による心のケア①体:体のケアは心のケアのためにもとても大事
流産を経験することは、女性にとって体の負担はとても大きいです。
大量の出血となるためです。自然流産であっても手術であっても、です。
とくに自然流産の場合、自分で大量の出血を目の当たりにするため、そのショックも大きく、体としても腹痛や貧血などが伴い、大きな負担となるのは当然です。
手術をするにしても全身麻酔で行われることが多いですが、全身麻酔そのものが体の負担ですし手術も体に負担です。
そういった体のケア(出血がしっかり止まる、傷の痛みがなくなる、違和感がおさまる)はとても大事です。少しでも体の不調があると、心のケアが長引いてしまうからです。
また、目に見える体の負担はなかなか本人以外が実際に知る機会がないので、きちんと理解するのは難しいのはよくわかります、が、女性としてはせめて夫にこの辛さを分かって欲しい、と思うことが多いようです。
一方で、男性は女性の体に対して「無知」であるが故の「怖さ」もありますし、あるいは文化的に分かり合えないものととらえることが多く、医学的に流産を理解することができても、体の痛みについてはむしろ想像することも「怖く」なかなか共感までできないだろうと推測できます。
だから、ここで大事なのは夫(男性)は女性の体の痛みや苦痛を「聞いてあげる」ことを役割だと理解していただければ十分です。妻(女性)は話すだけでも気持ちが楽になることがありますし、痛みについて話を聞いてくれる人がいるだけで安心するのです。
そして妻も本当は夫も「同じように」自分の苦痛を感じて欲しい、と思うのですが、実際それは不可能です。体のつくりが違いますから。だけど、一生懸命夫が妻を理解しようとする姿勢に、夫として役割を果たそうとしていると受け止めることができれば、夫はわかってくれない!と不必要な憤りを抱える必要がなくなります。
男女で体のつくりは違うのです。
だから感じ方も違うし、わかりあえなくて当然、ということを基準にすることも
体のケアにつながります。
流産による心のケア②喪失:生まれたかもしれない赤ちゃんを失うこと
体のケアが十分になされたとしても、心のケアには時間がかかります。とても2,3か月で回復するものではありません。
流産は生まれたかもしれない赤ちゃんを失ったことになるので、その悲しみからの回復には時間がかかります。
また、人によりますが今回の妊娠をすごく喜んだ場合、流産になると天国から地獄に突き落とされたかのような強いショックを受け、回復するのに時間を必要とします。
逆に、すごく慎重な方で流産になることも想定済みの方の場合、流産になると「ああ、やっぱり」と思い、大きなダメージはないかもしれませんが、自分の感情を鈍くするという対処法なのでそれはそれで心にとっては不自然なので負担になっているのです。そして、そのことに本人が気づかないケースが多く、後になってそれが大きな心の負担になる場合もあるので、早めのケアが必要なのです。
この心のケアについては女性だけでなく、男性も必要なことがあります。表面的には問題なさそうに見えても心ではとても悲しんでいることもあり、女性が落ち込んでいる男性をみて、自分がしっかりしないと!と思って、自分の悲しみを保留にするケースもあります。
それはそれで女性の負担が増えるので、それぞれに悲しんで、さらに一緒に悲しむことができれば一番よい回復につながります。
流産による心のケア③悲しみ:時間が経ってもよみがえる悲しみ
流産による心のケアは複雑ですし、時間がかかるものです。
また、不妊治療を行っている場合、流産となって1,2か月後にはまた採卵、もしくは移植という話になり、十分に悲しむ時間もないのです。
そうなると悲しみに蓋をして進むことが多く、後になってなんだかわからない不安や落ち着きのなさ、急に涙が出てくる、無力感、孤独感に襲われることがあります。それが治療中でもあるし、子供が授かった後でもあるし、治療を終え、子供のいない人生をすでに10年送っていても、ある日突然悲しみがよみがえることもあります。
流産は女性にとって体も心も大きな傷となりやすく、でもその場でしっかり悲しむ時間もなく、周囲の理解も少ないので、あとになって蓋をしていた感情があふれやすいのです。
そういう意味では、男性の場合はあとから悲しみがよみがえる機会は少ないかもしれません。それは体で流産を経験していないからです。それでも、当時の悲しみを忘れることはないので、折に触れて思い出すことはあるでしょう。ただ、女性のように思い出して気持ちが乱れる、というケースは少ないようなので、やはり流産を経験した女性へのケアがより必要となります。
流産を経験された方達にお伝えしたいこと
流産にもいろいろな状況がありますが、生まれるはずだった赤ちゃんを失ったことには変わりません。
男女でもそのとらえ方は違いますし、世代や立場(医療者や友人)によっても言葉がけは変わってきます。
本来なら流産となった場合、実は男性のケアも大事なのですが、やはり女性の体と心のケアを最優先に行う必要があります。ただ、不妊治療をされている場合はその機会が奪われやすいです。そうなると後になって悲しみがよみがえることがある、と理解していただくだけでも流産のケアにつながります。
ベストなケアはまずは体を本来の自分の体に戻す、同時に授かるはずだった赤ちゃんを失ったことを十分に悲しむ、そして自分のタイミングで、新たに授かるかもしれない赤ちゃんに出会うための準備を始める、ことができれば
流産のケアができていると言えます。
なかなかこの過程を一人で、あるいは夫婦で行うのは難しいのですが参考にしていただければと思います。あるいは、カウンセリングの利用もご検討ください。悲しみを理解してくれる場があるだけでも安心感が得られます。