不妊から始まる生殖物語の書き換え:自分の生き方再構築のヒント
不妊を経験しなければ経験することがなかったかもしれない辛さ。辛さの一つである生殖物語の書き換えを通じて自分の人生を再構築できるヒントをお伝えします。
目次
- ○ 不妊と不妊症
- ○ 生殖物語とは
- ○ 不妊症となって初めて考える自分の人生の意味
- ○ 生殖物語の書き換えの辛さ
- ○ 自分の人生の再構築
- ・人生の再構築のヒント①:それまでの人生を認めてあげる
- ・人生の再構築のヒント②:描いていた人生との別れをしっかり悲しむ
- ・人生の再構築のヒント③:自分らしくありのままの自分でいられること
- ○ すべての人が満たされる社会を願って
不妊と不妊症
不妊症の難しさは、体は不妊、つまり子供を産むための機能が機能していなくても、本人達、つまりカップルが子供を望んでいなければ不妊症ではない、というところです。
たとえば癌です、と診断されば、その人は自分が否定したとしても、癌患者、という認識を社会はしますが、不妊症については、不妊であっても「不妊症」という症状はないし、治療を必要としない、つまり子供が欲しいかどうかという気持ちで、治療が必要か不要かが決まる、という不思議なものなのです。
生殖物語とは
そうなると、子供が欲しいから不妊治療をする、となるのですが、この子供が欲しい理由は何か?改めて聞かれるとすぐに答えがでないことが多いです。ここで「生殖物語」という人間が一人一人抱いている理想の家族像、思い描いている自分の家族について考えることで、子供が欲しい理由が少し明確になったり、今まであいまいだった自分の思いに気づくことができます。
詳しい生殖物語についてはリンクを参照してくださいね。
不妊症となって初めて考える自分の人生の意味
それまでは結婚して子供を産んで家族4人でいずれ孫が5,6人?そして、皆に看取られながらこの世とお別れできればいいな、と思っていたのに、結婚はできた、さあ次は子供!と思ったところで、それが難しいとわかったとき、その後の人生の予定が総崩れになりがちです。自分の人生を改めて考えなおさざるを得なくなります。
不妊が分かった場合は、それまでの自分の人生のあれこれを後悔するケースも多いようです。もっと早く結婚すればよかった、仕事ばかりで体調管理ができていなかったのが悪かったのかな、パートナーが早く子供作ろうって言ってたのにのんびりしていた時間がもったいなかった、などなど。
ここまでは順調だった人生が、これまでにない危機を覚え、改めて今後子供のいない人生があるかもしれない、孫のいない人生を初めて想像することで、自分の人生の意味を改めて考える人は多いようです。
生殖物語の書き換えの辛さ
生殖物語でお伝えしたように、生殖物語は3歳前後から書き綴られてきたものです。それを30歳前後からその物語通りではないことに気づき始め、35歳前後あたりで現実として、自分が書き綴ってきた物語の変更を、自分の意思以外で余儀なくされるのはとてもとても辛い作業になります。
30年近く温めてきて、ようやくそれを実現できる!と思った矢先で、それが叶わないとなれば、ショック、悲しみ、怒り、受け止めの難しさ、は当然あるでしょう。
また、不妊の難しさとして、自分だけではなく、パートナーとの関係がからみ、さらにはお互いの原家族(お互いの実家族)も関わって、本当に、本当に不妊は複雑なのです。
頭ではわかっていても、なかなか書き換えが進まないのは当然と言えます。
それはお子さんが一人いらっしゃるケース(二人目不妊)でも言えます。子供は少なくとも2人、できれば3人!と思い描いていた人にとっては、お子さんに兄弟を作ってあげたいのにそれが叶わないことは、やはりとても悲しいものです。「一人いるからいいじゃない」と言われます。そうだよね、と思う反面、二人目を望むことは贅沢なの?だって、「皆」兄弟がいるじゃない!、あるいは自分は一人っ子で寂しい思いをしたから、もしくは自分には兄弟がいたから寒しい思いをさせたくないから、などお子さんを思っての二人目を望む気持ちは、また一人目不妊とは違うものがあります。
その生殖物語の書き換え、つまり子供は一人、3人家族を受け入れ、その後の人生の予想図の考え直しはやはり辛いものがあるのです。
自分の人生の再構築
生殖物語の書き換えは、辛いのですが、それでも毎日はくるし、生きていかないといけません。生殖物語の書き換えを中心に、人生の再構築のヒントを3つお伝えします。でも、悲しくて、悔しくて、なかなかその事実を受け入れられなかったり、最新の技術を追い求めたり、心も体も試行錯誤をする時期はあると思います。それはそれで大事なプロセスです。その経験こそが、自分の人生の再構築の土台になります。
人生の再構築のヒント①:それまでの人生を認めてあげる
でも、悲しくて、悔しくて、なかなかその事実を受け入れられなかったり、最新の技術を追い求めたり、心も体も試行錯誤をする時期はあると思います。それはそれで大事なプロセスです。その経験こそが、自分の人生の再構築の土台になります。
これまでは、今後の人生を想定していたからこそ頑張ってきたことや準備していたことが沢山あるでしょう。でも、子供が想定通り授からないことで、これまでの人生の意味が変わってくることもあるのだと思います。そして、思い通りにいかない現在があるために、これまでの人生を否定しかねない聞きに陥ることもよくあります。
でも、ここが踏ん張りどころです。
今後の人生をどのように歩んでいくのか、生殖物語の書き換えの作業とともに、自分の人生の未来予想図も描き直す作業をする、そうすることで、これまでの自分が生きてきた過程の意味も変わってくるかもしれないし、少なくとも否定的になることからは解放されます。
まずはこれまでの自分の人生を認めてあげましょう。後悔することも、失敗だと思ったこともあってもよいのです。きっとよかったことも成功したこともたくさんあるはずですから。それがあるから、今があります。そして、今の危機を乗り越えるためにはこれまでの自分の生き方を「自分らしさ」と受け入れ、認めてあげることが大事です。幼少の頃は親や外部の影響が強かったはずですが、それはそれで嫌な思いや理不尽な気持ちがあって当然です(同時に良い思いをしたり、感謝することもあったでしょう)。すべてをひっくるめて認めることが大事なのです。大事な自分の人生の一部ですから。
*ただし、幼少の頃の傷ついた思いはトラウマになっているケースもあるので、それは人生の再構築の作業としてもケアが必要です。傷ついた気持ちを認めることが大事であって、決して自分が悪かったんだ、と思うことではありません。
人生の再構築のヒント②:描いていた人生との別れをしっかり悲しむ
生殖物語の書き換えを含んだ人生の再構築をするうえで、次に大事なのは、もともと描いていた自分の人生との別れをしっかり悲しむことです。思い通りに行かなかったこと、こうあればいいなと思っていた理想の将来はここでお別れになります。諦める、という表現の場合もありますが、それでも願っていた自分の将来の人生をしっかり悲しむこと、私、僕はこんな人生を送ってみたかったけど、それが叶わないようだ、悲しいことなんだね、と「きちんと」悲しむことが大事です。
蓋をしたり、そんな人生思ってもなかったよ、など「なかったこと」にしないことが大事です。「きちんと」悲しむことでその悲しみは受け入れられ、次のステップに健康的に進めるからです。
人生の再構築のヒント③:自分らしくありのままの自分でいられること
自分らしさ、という言葉をよく聞くと思います。ありのままの自分とか。ガーベラ不妊相談室でもそれを一番大事にしています。あなたがあなたらしくいるためにサポートしています。なぜなら、心も体もありのままのあなたでいれば、満たされるに違いないだろうから、という思いがあるからです。
つまり、本来もっている体や心があるかもしれません。でも、体や心も成長とともに、時間とともに、環境とともに変わりますよね。もって生まれたもの(遺伝的なもの)は環境によって大きな影響は与えられ、そのなかで自分らしさ(アイデンティティ)というものを人間は見つけていきます。
自分らしさというものは変化するもので、健康だった自分が不妊である自分、のように変わったり、お母さんになるのが夢な自分、から社会貢献に意欲をみつけた自分、のような変化もあるでしょう。
そういう意味では自分らしさ、アイデンティティは一つだけではなかったり、変わっていくものではありますが、変わらないのは、自分らしさというものは常に自分を満たしてくれる思い、なのだと思います。
だから、人生の再構築をする際は、自分らしさはなんだろう、ありのままの自分でいられるようにするにはどうすればいいのだろう、という視点があればより再構築は進むだろうと思うのです。
常に自分を満たしてくれる思いが自分の中にあるのなら、それはとても心強いことですよね。
すべての人が満たされる社会を願って
何事も思い通りにいけば、幸せを感じるのは当然です。ただ、人類すべての人が思い通りの人生を送ることは不可能ですよね。だって、人間はお互いかかわりあって生きているので、お互いの「思い通り」が全く一緒のはずはなく、そもそも思い通りであることが、本当に幸せなのか?という疑問もありますよね。
ただ、幸せの度合いやタイミングはそれぞれ異なるにしても、「満たされる」という感覚はすべての人にあればいいな、と思います。その一つの方法として自分らしくいられることだと思うのですが、そう思えるためには社会がその環境を整える必要もあるだろうと思います。
たとえば、社会での選択肢を多くしたり、且つその人に適切な選択ができるようなサポートを提供したり。これは不妊に関わらず、多くの少数派の人々にもそうですし、大多数の人にも実は大切なことであって、むしろ大多数の人が満たされる社会であればあるほど、少数派への支援は手厚くなり、少数派であっても満たされる社会になるだろうと私は予想します。
そうなれば、人生の様々な場面で人生の再構築を必要とする人たちも、健康的に前に進めるのではないかと思います。人生すべて思い通りだった、と思う人間はおそらくいないでしょう。誰もが何かしらの危機を経験し、その都度人生の再構築を必要とする時があるはずなので、その時に各個人の努力も必要ですが、それを促してくれる社会も心から願っています。
願いばかりではなく、実現に向かって頑張ってまいりたいと思います。