どうすればいい?男性不妊の悩み
不妊の原因の一つとして男性の問題があります。女性に問題がある場合とまた異なる悩みが生じるため、その理由と対処法をお伝えします。
目次
- ○ 男性不妊について知る
- ・男性不妊とは
- ・男性不妊と診断された場合の心理的な反応
- ○ 男性不妊の悩み
- ・男性の問題のみの場合
- ・男性も女性も両方に問題がある場合
- ・男性にも女性にも問題があるのかもしれない、場合
- ○ 男性不妊がある場合の対処法
- ・男性不妊について学ぶ
- ・他の選択肢を検討する勇気をもつ
- ・理想と現実の間で悩んでいいし迷っていい
- ・苦しみを受け止めてもらえる場所を作る
- ○ おわりに
男性不妊について知る
不妊と聞くと女性に問題があるから妊娠、出産できない、というイメージが以前は強かったのですが、今や男性不妊という言葉もごく普通に聞かれるようになり、不妊の原因は女性だけではない、ということは認知されるようになりました。
では、具体的にはどういうことなのかを簡単にお伝えします。
男性不妊とは
◎男性不妊の割合
近年、日本人カップルの6組に1組は不妊症ともいわれています。
WHOの調査によると、不妊の原因が女性のみの場合が41%、男性のみは24%、男女双方が24%、原因不明が11%となっており、不妊カップルの二組に一組は男性側にも原因があることがわかります。このような事実は、比較的最近まで、ご存じない方のほうが多かったと思います。しかし、潜在的に男性不妊の方は多数おり、男性の十数人に1人は不妊症ともいえます。男性不妊は決して特殊で珍しいことではないのです。
◎男性不妊の種類
2016年に男性不妊に関する厚生労働省の調査の結果では、男性不妊の種類は大きく、
造精機能障害
性機能障害
精路閉塞障害
の3つに分けられることがわかりました。
◇造精機能障害
造精機能障害は、男性不妊のなかでもっとも多い原因であり、男性不妊全体の85%以上を占めています。精巣の調子が悪く精子を造ることができない、造りにくい、あるいは造れたとしても状態のよい精子(運動率が低いなど)ではないといったもののことをいいます。
例えば
・精索静脈瘤
・クラインフェルター症候群
・停留精巣
などがあります。
◇性機能障害
性機能障害とは、ED(勃起不全)や腟の中で射精ができないなどの射精障害のことをいいます。割合としては造精機能障害の次に多く、性機能障害で、男性不妊の13.5%ほどとなっています。
◇精路閉塞障害
男性不妊の残りの3%ほどが、精路閉塞障害です。
精路閉塞障害とは、精巣内で精子は造られているのに、何らかの原因により、精子の通り道が塞がってしまっている疾患です。精子の通り道が塞がってしまっているため、射精した精液に精子がない状態(閉塞性無精子症)です。
精路閉塞障害の主な原因としては、
・先天性両側精管欠損症
・精巣上体炎後の閉塞
・鼠径ヘルニアの手術
・パイプカット(精管結紮術)
などがあります。
◎男性不妊の原因
男性の不妊原因は不明の場合も多いですが
造精機能障害(精索静脈瘤や停留精巣)
性機能障害
性感染症
精路通過障害
などが診察、検査によって見つかることがあります。
また、思春期以降でおたふく風邪の既往歴がある方(過去に発症したことのある方)も精液所見が不良になる場合があります。
日常生活においては、
・喫煙
・過度の禁欲
・睾丸を過度に温める
・肥満、カロリーや炭水化物過多の食生活
・過度の飲酒
・長時間の自転車
・精神的ストレス
・電磁波
などが影響するともいわれています。
◇精索静脈瘤
造精機能障害を起こす原因としてわかっているものは、精索静脈瘤です。精索静脈瘤とは、精巣から心臓に戻る静脈内の血液が逆流することによって、精巣のまわりに静脈の瘤(こぶ)ができる疾患です。
男性不妊症患者さんの約40%が精索静脈瘤と診断されています。精索静脈瘤がある場合、血液が本来流れる方向とは逆の方向に流れるため、血液が停滞し精巣の温度が上がります。そして、造精機能が低下し、不妊へとつながってしまいます。
◇思春期以降におたふく風邪
その他は、思春期以降におたふく風邪を患った経験がある方や、遺伝性の疾患、薬剤の影響、特殊なホルモンの異常、喫煙、肥満なども男性不妊のリスク要因となっていると考えられています。
◇抗がん剤
最近では、がんの治療として、抗がん剤を使用することで、精子を造る能力が低下するということがわかっています。
◇加齢も男性不妊の原因のひとつ
年を重ねるにつれて女性の卵子が老化していくように、男性の精液所見も低下していきます。精液所見である、精液の量、運動率、総運動精子数を年齢別に調べたものがあります。
その結果これらの項目において、年齢が上がるにつれて、所見は低下しており、20歳代の方と50歳以上の方を比較すると、約半分ほどになっていることがわかりました。妊娠するためには男性の加齢も無視できないことを示しています。
◎男性不妊の検査
男性不妊の検査には、以下のようなものがあります。どの検査も身体的な痛みを感じることはほとんどありません。しかし、まれに、精巣診察をする際に緊張から気分の悪さを訴える方がいらっしゃいます。
◇精液検査
一般的には、2~7日の禁欲後に、マスターベーションにより精液を採取していただきます。そして、精液量、精子の濃度、運動率、正常形態率など精液の所見を調べます。
◇男性不妊症血液検査
血液を採取し、ホルモン(LH、FSH、PRL、男性ホルモン)、クラミジア抗体などを検査します。
◇男性不妊診察
精液検査で異常がでた場合は、精巣やその周囲の診察、超音波検査を実施します。
以上「男性不妊とは?」より抜粋(リンクを参照)
男性不妊と診断された場合の心理的な反応
男性不妊と診断されるとやはりショックですよね。
それは今も昔も不妊の原因は女性にあるもの、というイメージがあるからです。
昔から男性不妊はありましたが、それが明確にされてこなかったのは
医学においても男性に欠陥があるはずがない、という思いがあったのでしょうね。
それが今になって科学的に多くのことがわかるようになり、
男性不妊も明確になってきました。
男性不妊と診断されたときの心理的な反応はその過程によって変わることもあります。
最初からカップルで不妊専門クリニックに出向き、早い段階で男性不妊を指摘された場合。
それであれば、勿論ショックですが、対処法も早いうちに教えて貰えるので、
早めにわかってよかった、という気持ちにシフトしやすくなります。
タイミング法までは女性のみの検査しかしておらず、人工授精の段階で男性不妊が分かった場合。
それまでは女性に問題があって子供が授からない、とカップルで思っていたのが実はそうではなかった、
という時に、男性不妊のショックに加え、これまでのカップルのやりとりが場合によっては男性が羞恥心や罪悪感を覚えることになります。
体外受精の段階になって、移植を何度やっても妊娠が継続しない、となった時に、
遺伝的な要因がわかる場合はあります。これは精子の状態が悪い以上に、男性にとってショックなことがあります。
遺伝子、ということは自分の根幹に結びつきやすいからです。
自分の遺伝子のせいで子供が授からない、というのは事実を受け入れるのに時間がかかるものです。
男性不妊の悩み
男性不妊の悩みはとても複雑です。
なぜかというと、子供を産むのが女性だからです。
男性不妊にもいろいろなケースがあるので、それぞれにお伝えします。
男性の問題のみの場合
上記したように、男性不妊にもいろいろあるのですが、女性には問題がなく、男性のみに不妊の要因がある場合、男性は女性に対して罪悪感もあり、もし不妊治療を女性がしたいと言えば、できる限り同意するでしょう。本当は子供はいなくてもいい、と考えてもそれは子供を望んでいる妻の前では言えません。
女性は自分には問題ないが、男性不妊の場合、顕微授精をすることになるため、採卵や移植など身体的な負担を強いられます。通院も夫の何十倍必要です。費用もかかります。自分には問題がないのに、と思います。でも、それは口にはしません。夫との子供が欲しいからです。
こうなると、お互い不妊治療について口数がどうしても減ってしまいます。お互いを気遣っているからこそ自分の本音を言えないのです。
治療の結果、子供が授かればいいのですが、そうではないケースもとても多いです。子供が授からなかったあとも、このお互いを気遣いあい、本音を語れない日々が続きやすいものです。それでうまくいくカップルもいますが、そうではないカップルの方が多いのではないかと想像しています。
本音を言えないでいることは、とても心の負担になるからです。
男性も女性も両方に問題がある場合
男性も女性も問題があって子供が授からない場合、ある意味不妊治療に取り組みやすい部分はあります。
お互い、医師に言われたことをやれば子供が授かる、という希望をもてます。
ただし、ここも男女差が出やすいのですが、
女性は自分の不妊の問題を改善させようと努力をするのですが、
その努力に対して、男性の改善の努力が「同じ」ではないと、
ケンカしやすい状態になります。
お互い問題あるんだから、お互い頑張らないと(というより、同じくらい頑張らないと)授からない!
と、女性が思いがちなのです。
そもそも取り組む課題は男女で違うのですが、
どうしても同じように頑張ってもらいたい、と女性は思うんですよね。
そういう場合も、カップルでの話し合いは必要です。
上記した、男性不妊のみ、よりは本音や正直な思いは伝えやすいので、
カップルの関係が改善される可能性はあります。
男性にも女性にも問題があるのかもしれない、場合
現実に、男性不妊、女性不妊、が明確ではないカップルもたくさんいらっしゃいます。
でも、最近では一度検査しただけで精子の状態が悪いと「男性不妊です」という女性や
妻が40歳だと、もう年齢が高いからそれが理由(女性の問題)かな、と思う男性や。
間違ってはいませんが、明確な原因とは言い切れないことも多く、
カップルの中で、子供が授からないのは男性不妊、女性の問題、と思っていることもあり、これが非常に難しい。
女性は精子の状態をよくしてもらいたいので、禁煙や食事など生活を整えてもらいたいのに、やってもらえない、
男性はもう妻の年齢が高く何をしても確率は低いので本当に子供が欲しいのなら養子縁組を考えてもいいのでは?
など、
カップルでバラバラな思いをいだくことがよくあります。
こうなると、子供は欲しいのですか?どうして欲しいのですか?という、
生殖物語について、二人で確認しあうことがバラバラな思いを
同じ方向性に向かうために必要になってくると思います。
この、なんとなく男性不妊?女性の問題?というのは
明確な原因がないからこそふわふわとした思いをお互いがもってしまうことで、
それなりの難しさがあります。
男性不妊がある場合の対処法
男性不妊があって悩まれている方に、その対処法や考え方を紹介します
男性不妊について学ぶ
病院で明確に男性不妊であると言われた場合、その原因などの説明を受けると思います。
それが明確であるほど、実は実子を持つことが難しい場合もあります。
とても辛いことですが、
事実の確認、今現在何ができるのかの確認は大事です。
それを受け入れてから、次にどうするのかを考えることができるからです。
事実を知ることが怖いこともよくあります。
当然です。
時間を必要とするかもしれません。
必要な時間はとっても良いですが、
回避、逃げることをすると、結局あとからその時間を後悔するケースもあります。
そのはざまで揺れることになりますが、
男性不妊について、正しい知識を学ぶこと、これが
辛い気持ちを変化させるための第一歩となります。
他の選択肢を検討する勇気をもつ
カウンセリングでは男性不妊がある場合、女性が離婚を話題にあげることはよくあります。
自然な考えですよね。
子供が欲しいと思ったけど、夫と結婚している限りそれが叶わないのなら、
離婚して、再婚して子供を授かる方法を思いつきますよね。
でも、思いつくのですが、それを実行する方はほとんどいらっしゃらないです。
(離婚を選ぶ方はカウンセリングに来ていない、だけだと思いますが)
ではなぜ離婚しないのか?
本当に、本当に多くの葛藤があります。
人それぞれ、です。
でも、実際に離婚を考えるからこそ、そうではない選択肢が見えることがあるのです。
離婚を考えること自体、避ける方もいらっしゃるのですが、
そうではなく、離婚も選択肢として検討するほうがその後の人生に後悔が少ない可能性があります。
他の選択肢としてはAID(提供精子による人工授精)という方法があります。
これは日本でも第二次世界大戦後から行われてきた方法ですし、
今やネット上で簡単に提供精子を手に入れることは可能です(でも!そのリスクはよ~く考えてくださいね)
きちんとした施設でのAIDについても一度は考えることも大事だと思います。
自分はそれを望むのか、望まないのか。
とくに女性が生殖期間である場合は、しっかり検討する勇気をもつことで、
のちの人生に後悔を増やさないことが大切です。
離婚にしろ、AIDにしろ、カップルで話し合うのは、それはそれは高いハードルですが、
話し合えるのなら素晴らしいカップルです。
話し合えないにしても、お互いがどこかで相談をする機会を設けることは
必要だろうなと思います。
理想と現実の間で悩んでいいし迷っていい
子供を望んでいて、それがなかなか叶わないと色々な理想と現実の間で苦しみますよね。
理想の家族像、何度もブログで言ってる生殖物語(リンク参照)がありますが、
それを書き換えなければいけない、それも劇的に。
時間はかかってもいいと思います。
沢山悩んで迷って当然なのですから。
ただ、いつまでも悩んだり、迷っていると、行き先を見失うこともあります。
まずは自分(達)でどうするかを考えてみる、
上記したように勉強してみたり、いくつか相談をしてみる、
それでさらに迷う、悩む・・・
苦しい作業ですが、それを必要とします。
男性不妊に限ったことではなく、不妊に悩むすべての人は
悩んで迷って当然なのです。
苦しみを受け止めてもらえる場所を作る
悩んで迷っていれば毎日がきついですよね。
そういう苦しみを受け止めてもらえる場所を作ってもらえたらいいなと思います。
相談できる友人でも家族でも、あるいはネットでも。
相手は人でなくてもいいです。ペットや育てている花や木や。
お気に入りの公園のベンチやカフェの決まった席や。
勿論カウンセリングルームも。
「場所」を作る、見つけることが大事です。
居場所、ではなく、苦しみを受け止めてもらえる場所、です。
自分をありのままでいいよ、と伝えてもらえるような、伝わるような場所、です。
その場所、空間があなたの大きな苦しみをいつか小さな苦しみに変えてくれるのです。
おわりに
男性不妊がある場合、
悩みはとても複雑です。
それは日本社会特有なこともあったり、
世界共通の難しさがあったり。
男性不妊と診断された場合の男性の心のケアをとても必要とします。
ただ、なかなかそういう場が日本では少ないのが現状な上に
男性が相談をする、ということにも抵抗が大きいこともあります。
でも、あなたの人生は一度しかないので、
いろんな人との出会いやご縁はとても大事だったり意味があるのだと思います。
できればたくさんの楽しい時間を過ごせるように、
今も苦しみがなるべく早く小さくなることを願いますが、
小さくするためにも、それなりの過程を必要とします。
早く逃れたい、一生この苦しみは続く?と思うと焦りますが、
時間を必要とすることもあります。
一生同じ気持ちでいることはありません。
それでけは信じていただければと思います。